「ミナミヌマエビってどんなエビ?」「ミナミヌマエビを飼いたい!」と思った方が混乱しないように、最初にミナミヌマエビを巡る少し面倒臭いお話をしておこうと思います。

はじめに

ミナミヌマエビは、天然では日本の静岡県焼津市以西・琵琶湖以南に生息している、一生を淡水で過ごす小型のエビです。水草や岩に付いたコケ、死んだ魚を含む水底の沈殿物を食べますが生きている小魚を襲って食べることはないので、簡単に水槽で飼えて繁殖させることができます。川や用水路などで採取できる地域もありますし、熱帯魚ショップでも水槽のコケ取り係として売られていたりします。釣り餌としても利用されており、タエビ・ブツエビなどの別名があります。

「ミナミヌマエビ」なのに違うエビ?

今のところ本来の生息域で採取した場合は在来種のミナミヌマエビの可能性が高いのですが、熱帯魚ショップや釣具屋で餌として売られている「ミナミヌマエビ」(ブツエビなど)は、中国などから輸入したミナミヌマエビの亜種のシナヌマエビの可能性が高くなります。(※ただし、天然採取の在来種ミナミヌマエビを取り扱っているショップも一部あります)また、飼育したり釣り餌として手に入れた後で自然の川へ放流されたりして、関東などの本来の生息域以外の場所で「ミナミヌマエビのようなエビ」が見られるようにもなりました。

在来種のミナミヌマエビじゃないのに「ミナミヌマエビ」の名前で売られているものがいる、この面倒臭さのために、ミナミヌマエビについてのお話があちこちで混乱しているように感じます。私の飼っているミナミヌマエビとあなたの飼っている「ミナミヌマエビ」が実は違う種類だったら、お話が噛み合わなくなってしまいますよね。

外見的な特徴からなんとなくある程度は見分けることができますが、個体差で見た目の違いがほとんどないように見えるものもいます。生物学的に同定するにはmtDNA(ミトコンドリアDNA)を調べてその型を比較しなければならないというお話になっています。

交雑したり交雑しなかったり

学術的な研究では、そのmtDNAの比較から、ミナミヌマエビとシナヌマエビが交雑した可能性があることが分かっています。自然保護の観点から、一度採取したり購入した生き物は、たとえ元の生息域であっても安易に放流してはいけません。在来種が絶滅危惧種になって採取できなくなったり、在来種との交雑が危惧されて外来種の輸入量が制限されたり、放流すると定着して在来種を脅かす危険のある外来種が規制されて飼育できなくなったり、結果として自分の首を絞めることになるのです。

そういった公衆道徳的なお話とはまた別のお話になりますが、私が水槽でミナミヌマエビ(天然採取)とシナヌマエビ(ショップ購入)のどちらかのオスとメス片方ずつを一緒に飼ってみた限りでは交雑しませんでした。一口で在来種のミナミヌマエビではない輸入された「ミナミヌマエビのようなエビ」をシナヌマエビと呼んでみても、その中でもさらにまたいくつかの種類が流通している可能性があります。また、ミナミヌマエビ・シナヌマエビともに、ビーシュリンプとその近縁種(シャドーシュリンプやゼブラシュリンプなど)とは交雑しません。しかし、シナヌマエビは色の付いたチェリーシュリンプとは近縁種で、一緒に飼っていると抱卵して稚エビが生まれたりします。「ミナミヌマエビ」と一緒にカラフルで綺麗なエビを飼っていたのに、稚エビが生まれて代が替わるたびにどんどん普通の色の「ミナミヌマエビ」ばかりになった…そういうお話もあります。もしかしたら、関東の川で捕ってきた「ミナミヌマエビ」と関西の川で捕ってきたミナミヌマエビが繁殖しない…とか、関西の川で捕ってきた綺麗な色のメスのミナミヌマエビを増やそうと思って、ショップでオスの「ミナミヌマエビ」を手に入れたのに繁殖しない…なんて悲しいお話もあるかもしれません。

なにが本物かとかどれが優れているかとかいうお話ではなく、違うものは違うものとして、それぞれの特性にふさわしい扱いをするように気を付けた方が幸せだろうと思うのです。

調べよう考えよう

「細かいことは気にしない!」という方もいらっしゃると思います。しかし、せっかくですから自分のエビがどんなエビなのか、見分ける方法はなんなのか、淡水のみで繁殖する種類なのか、小魚を襲う種類なのか、混ぜると交雑する種類なのかなどを調べて考えながら飼育すると、エビへの理解と愛着が深まると思います。またエビについての知識を得ることで「肉食魚の生き餌にするからとにかく淡水で飼える他の魚を襲わない安くて小さなエビが欲しい!」なら、釣具屋でグラム売りのブツエビを買うのが確実だという結論に至ることもできます。

そんなエビへの理解が深まる助けとなるサイトとして「蝦三昧」さんをオススメしておきます。淡水エビの飼い方や見分け方が詳しく解説されています。私も初心者の頃、あれこれ勉強させていただきました。もはや感謝しかありません。

※なお当サイトでは、天然採取の在来種ミナミヌマエビと思われる個体及びその累代飼育個体を「天然採取ミナミ」、ショップ購入の在来種ミナミヌマエビとは少し違うと思われる個体及びその累代飼育個体を「購入ミナミ」「非天然ミナミ」などと分けて表記しています。

あなたが楽しいエビ飼い生活を送れますように。